をとめの香する一月の 高野公彦歌集『水苑』を読む。
高野公彦歌集『水苑』を読む。今回は、「紅にあそぶ」の
P.30 の一首目。
「俊成の鹿ならねど。」と詞書き(ことばがき)がついています。
をとめの香する一月のキャンパスの寒気胸分けにわれは
歩めり
胸分けにむなわけとよみがついています。読んでいきます。
をとめのかするいちがつのキャンバスのかんきむなわけに
われはあゆめり
「俊成の鹿ならねど。」というのは、藤原俊成の歌に
世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る
山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる
というのがあります。歌意は
つらくいやなこの世の中から逃れる道はないのだなあ。
思いつめて山の奥に入ってきたが、妻をしたう鹿がさびしく
鳴いていることよ。 というようなことです。
むなわけは、胸で草木などを押し分けること、という意味が
あります。
一月のキャンパスというのは、女子大のキャンパスで、
乙女の香がするんですね。その寒気のなかをむなわけに
自分は歩いたというんです。そのとき、この世から逃れる
すべはないんだというよなことを作者は思っていたんだ
ということですね。そんなに、真剣な思いで作ったのでは
なくて、ちょっとした遊び心で作った歌なのでしょう。