高野公彦歌集『水苑』を読む。 葦がゐて葦と

今回は、高野公彦歌集『水苑』の

薄やうの雲

の続きです。P.23の2首目。

葦がゐて葦とそよいでゐた頃の湿地思ひて夜の渋谷ゆく


読んでいきます。
あしがゐてあしとそよいでゐたころのしっちおもひてよの
しぶやゆく

 「葦とそよいでゐた頃の湿地」というのは、葦のほかにガマ・ミ
ズバショウなどの湿地植物が生えていた湿地、その湿地で戦いでい
たころ、なので

この歌でも夜の渋谷をとおりながら、湿地であったころの昔を想像
している、あるいは思いをはせているということですね。

前回の魚藍坂は千年前の穂すすきでしたが。薄やうの雲は次回の
一首で終わります。



蛇足

 渋谷の地名の由来にはいくつかの説があり、

 昔、この付近は入江であり、「塩谷の里」と呼ばれていました。
その「塩谷(しおや)」が「渋谷(しぶや)」に変わったとする説があ
ります。

 渋谷は武蔵野台地を侵食する渋谷川(穏田川)・宇田川の合流地
点に作られた“谷底の街”である、谷両側の勾配は大変厳しいが、

穏田川(渋谷川の上流部)、宇田川はいずれも現存しないなどと
説明されています。